〈リノベーションカフェ巡礼 vol.3〉築83年の木造住宅、キアズマ珈琲 | リノベーションスープ

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〈リノベーションカフェ巡礼 vol.3〉築83年の木造住宅、キアズマ珈琲

歴史ある建物をリノベーションしたカフェを巡る企画。今回は、雑司ヶ谷の〈キアズマ珈琲〉にお邪魔しました。

鬼子母神の参道にひっそりと、本当にひっそりと佇んでいます。うっかり気をつけないと通り過ぎてしまいそうなほど。アンティークのガラス戸を開くと、思いのほかモダンな空間が広がっていました。

昭和8年の木造建築「並木ハウス別館」

樹齢400年を超えるという鬼子母神参道のケヤキの木。こじんまりとした参道には不釣り合いなほど大きく、堂々としています。そのケヤキ並木に溶け込んでいるのが、築83年の〈並木ハウス別館〉。

「並木ハウス別館」が建てられた昭和8年は、西洋のアール・デコ様式が日本で花開いた時代。その趣を残しながら、数年前に改修されたそうです。

ここに店を構えるのが、〈キアズマ珈琲〉です。

長屋の形状も、タテヨコに視線が抜けて伸びやかに

もともと長屋だったという建物。1階は、縦長の空間に長いカウンターとテーブルが2席です。

上部には小さな吹き抜け、手前と奥にはガラスの建具と窓。タテヨコに視線が抜けることにより、実面積以上の伸びやかを感じます。

天井は既存の仕上げ材を撤去し、天井板をあらわしに。梁も天井板もかなり年季が入っているようです。

アンティークの格子の引き戸、古材、モルタル、漆喰

入り口は、リノベーションで全面開口したとか。そこにはアンティークの引き戸が4枚、申し分ないほどピタリとハマっていました。

引き戸は、高安さんが建具屋さんで見つけてきたもの。経年で焦げ茶に変色した木枠や、手づくりのガラスの揺らぎと気泡。店の前の通行人や、ケヤキの木漏れ日など、ガラスの先に見えるモノをやさしく映しています。

床は、足場材とモルタルがスペースごとに張り分けられていました。キズや変色のあるざっくりとした古材と、大きくクラックが入ったモルタル。あまりにも建物の古さにフィットしていたため、最初に「床は既存のままですか?」と聞いてしまったほどです。

古い木造ですが、木のブレース(筋交い)や柱で耐震補強は万全。それによって生まれた袖壁で、テーブル席がゾーニングされていました。壁に囲まれ、落ち着けるスペースに。

壁は漆喰を。ひかえめな光沢がうつくしく、独特の淡い陰をつくりだしています。その壁にはライムグリーンのアンティークライトが。懐かしいようなもの静かな光を放っていました。

椅子は、高安さんのおじいさまがやっていた喫茶店で使われていたものだそう。

レトロさの中に、塗装の壁でモダンな要素をプラス

アンティークのガラス戸や古材などで時代性をつくりつつ、奥の水まわりは黄色い壁に。入り口側のやや懐古的なイメージに、モダンな要素が加えられています。

塗装の壁は、光があたると塗りムラがあらわれ、ゆたかな表情。明るく居心地のよいスペースです。

奥の階段を上がると、2階はテーブル席が中心。ゆったりとした間隔でテーブルが並んでいます。

2階はもともとは住居だったそうですが、畳をフローリングに張り替え、壁を塗装し、天井の仕上げを撤去。窓からたっぷりと自然光が注ぎ、友達とおしゃべりするのにちょうどよい開放感です。

奥には個室のようなスペースがありました。あらわしの梁と勾配天井、木の格子窓、赤く塗った壁。

それほど広さはないものの、天井高があるため開放感を感じます。

収納を工夫し、壁をすっきり。一面を黒板塗装に

高安さんのこだわりの1つが、カウンターです。「カップボードを設けずに、壁面をすっきりとさせたいと思ってました」。そこで、カウンター側から収納として使えるような立ち上がりを造作。内側にはコーヒーカップを並べているそうです。

そのおかげで、壁一面は黒板塗装に。今はお客さんが描いたイラストが空間を飾ります。

ちなみに朝から気になっていたのが、テーブルに置かれたコーヒー豆。高安さんはちょっと手が空くたび、カウンターに座って煎りムラをよけていました。そういえば、先ほどから豆のいい香りが店内に充満していますね?

「焙煎したらすぐに飲む方が美味しい豆と、ちょっと時間をおいたほうが美味しい豆がある。豆によって変えています」(高安さん)

昔ながらのネルドリップで、煎りたてのコーヒーを

抽出方法は、昔ながらのネルドリップ。古い喫茶店でときどき見かけるものの、最近ではとっても珍しくなりました。

キアズマ珈琲では、注文したら一杯分ずつ豆を挽いて、ゆっくりとドリップしてくれます。

淹れてもらったのは、焙煎したてのタンザニア。

口のなかでやさしい酸味が広がります。ゆたかな香りがただようのは、今朝煎ったばかりだから。

アラビアのクロッカスに注いでもらいました。他にもクイストゴーのレリーフ、ロールストランドのエリザベスなど、北欧ヴィンテージを代表するカップで提供されます。

店先の看板は驚くほど小さく、控えめ。それなのに、朝からお客さんがつぎつぎにやってきます。3年前から通っている常連さんに魅力を聞いてみると、「オーナーの人柄かな」と。

高安さんはどんなお客さんに対しても自然体。ムリに会話をしたり、盛り上げたりもしません。お客さんもごくごく普通。思ったことがあったら喋ればいいし、なかったら黙ってればいい。家族に対しでもそうですよね。そういうウソのなさが、居心地のよさをつくっているのではないでしょうか。

ちなみに「キアズマ」の店名はジャズの巨匠・山下洋輔さんのCDアルバムからとったとか。フィーリングで音楽をつくりあげていくフリージャズと、ルールやコンセプトにとらわれないキアズマ珈琲のリノベーション空間・接客。共通するものがあるような気が…。

まとめ

リノベーションをするずっと前から、理想の空間をイメージしていた高安さん。

偶然〈並木ハウス別館〉の前を通りかかり、「こんなところで店を出せたらな」と思っていたところ、1年後にテナント募集を発見したそうです。

3年ほど物件を探していてやっと巡り会えた物件。設計を依頼したアトリエには、ずっと前から理想のイメージを伝えていました。気に入った建物とプランがそろえば、あとは完成に向かって突きすすむだけ。

住まいのリノベーションでも同じで、暮らしをイメージすることが何よりも大切です。最初はざっくりとしたイメージでかまいません。はっきりとしたプランやデザインは、デザイナーと一緒に考えていけばいいのです。

まずは立ち止まって自身の”好き”を整理してみる。好きな本、音楽、街で出会ったカフェやレストランなど、お気に入りのモノを見つけたら、リノベーション会社にそのまま伝えてみましょう。”想う”ところから、リノベーションがスタートします。

*バックナンバー*
〈リノベーションカフェ巡礼 vol.1〉ONIBUS COFFEE/中目黒
〈リノベーションカフェ巡礼 vol.2〉SOUL TREE/二子玉川

鬼子母神の参道にたたずむリノベーションカフェ。古材や漆喰、アンティーク建具やライトなど、リノベーションの参考になるアイデアがたくさんあります。
 
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