トップインタビュー『TIME & STYLE/タイム アンド スタイル』後編  | リノベーションスープ

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トップインタビュー『TIME & STYLE/タイム アンド スタイル』後編 

繊細なシルエットの家具を、”職人の手しごと”によって作りつづけているTIME & STYLE(タイム アンド スタイル)。

運営している株式会社プレステージ・ジャパンの活動は、1985年のドイツからスタートします。ベルリンでの創業を経て1997年、自由ヶ丘にTIME & STYLE1号店をオープン。

「『こういう製品をお客様に届けたい』という経営者の想いが、製品となるべき」

創業者である吉田龍太郎社長へのインタビュー、後編です。

※インタビュー前編はこちらからご覧ください。

「経営者がものづくりにコミットしていないと、いいものは生まれない」

ーーーTIME & STYLEさんの家具の特徴といえば、”シンプルなデザイン”と”緊張感のあるシルエット”。吉田社長は、家具づくりにどのように関わっていらっしゃるんですか?

吉田社長

僕は家具をアカデミックに学んだわけではないんです。だからデザイナーではなく、経営者という自覚があります。とはいえ”経営の考え方”は、”製品”に反映される。経営者がものづくりにコミットしていないと、いいものは生まれません。

ーーー経営者の考えが、そのまま製品にあらわれるということですね。

吉田社長
ええ。たとえばドイツの車は、長い歴史のなかで経営者が変わってもイメージが変わりませんよね。メルセデスはメルセデス、ワーゲンはワーゲンの空気感をまとっています。これは経営と製品がリンクしているからです。「こういう製品をお客様に届けたい」という経営者の想いが、製品となるべき。僕がもづくりのプロセスに関わっているのは、その役割があるからです。

「これまでのアウトラインに限界を感じるようになってきた」

ーーーところでTIME & STYLEさんの家具は、時代ごとに少しずつ変化しているような気がします。もちろん全体のイメージは変わらないのですが…

吉田社長
はい、少しずつ変わっています。とくに大きく変わったのは2011年です。それまでは、平面の多面体でつくったキューブな家具ばかりでした。コーナーには切れそうなほど鋭いエッジをたてて、空間に緊張感を持たせることを基本としていたんです。

でも2009年頃でしょうか、立方体のアウトラインに限界を感じるようになってきた。お客さまからも「コーナーが尖っているからストレスを感じる」という声を聞くようになりました。「たしかにお子さまがぶつかると危ないな」という気持ちがありながら、一方では「お客さまが僕たちの家具を好きでいてくれる理由はここにある。コーナーを面取りすると、緊張感がなくなってしまう」という固定概念があったんです。

ーーーエッジがなければTIME & STYLEではない、と。

ええ。でも「なんとか脱却して、次のステージにいかなければならない」という焦りがありました。

「有機的なRなら、面取りしてもこれまで通り緊張感を保てる」

吉田社長
はじめは椅子を家に持ち帰り、サンダーで面を削ってみたんです。やってみたら、これまでとは違う緊張感を表現できることに気がつきました。

コーナーだけにR(曲線)をつけるのではなく、全体につながる有機的なRをつけることで、もともと持っていたスクエアの緊張感を保てたんです。

それで、今度は週末のオフィスでテーブルを面取りしてみました。スタッフから「木屑が入ってPCが壊れるからやめてくださいよ」なんて言われながら(笑)。とにかく直角だったところをまるっと取ってみました。

ーーー吉田社長がそんなことをなさっていたんですね…。

吉田社長
そのおかげで、手しごとのよさにあらためて気がつきました。たとえば図面上では、脚と天板の3方が交差するエッジをRでつなぐことはできません。でも手作業なら、感覚的にキレイなRをつくることができたんです。

「閉塞していた視界がドンと大きく開けた」

ーーーCAD上は成り立たないことも、手しごとならできた。職人さんの伝統技術みたいですね。それから家具のスタイルが大きく変わったんですか?

吉田社長
そうですね。やる前は、『エッジがないと緊張感を保てない』と思っていました。でも触りながら手作業で削ることで、緊張感を保てる面の取り方がわかった。そこからは、家具に「やわらかさ」と「緊張感」を共存させられるようになりました。

それと木材にエッジがあると、中が詰まっているか空洞なのかわかりませんよね。面をとることによって、「中までつながっているんですよ」という奥行きを表現できる。これまでなかった面白さを見つけて、閉塞していた視界がドンと大きく開けました。

「来店するたびに、いつも違う空気を感じていただけるように」

ーーーTIME & STYLEさんの象徴だったエッジをなくて、新しいスタイルを確立された。最近では隈研吾さんや関ヶ原石材さんとコラボレーションされるなど、常に新しい可能性を追求しているようですね。これからも変わり続けていくのでしょうか。

吉田社長
変わり続けるというよりも、『学び続けなければいけない』と思っています。それを家具づくりや店づくりに反映して、お客さまがご来店するたび、いつも違う空気を感じていただけるように。

たとえば、今は店内に盆栽があるんですが、これまで忘れ去られた”日本のいいもの”を現代のスタイルとしてご提案したいという意図があるんです。実際にマネしなくても、『刺激』として感じ取っていただけるといいなと思っています。

ーーーTIME & STYLEのお店では、昔から定期的にライヴを開催されています。これも『刺激』のひとつですか?

吉田社長
はい。僕たちがスタートして、年月を重ねるごとに新しい出会いがあります。そして昔からのお付き合いの方たちもどんどん変わっていきます。そのつながりの中で自然に生まれてくるものを、道具・家具・空間としてお客さまにお伝えしていきたいんです。

いつも演奏してくださっているピアニストのケイ赤城さんや、ドラムの本田さんは昔からお付き合いさせていただいている方。ケイさんはマイルス・デイビスのバンドで唯一の日本人メンバーだった方なので、演奏の素晴らしさは言うまでもありません。

ーー先日開催されたライヴも、すごく盛り上がっていましたね。お客さまのなかには「ジャズライヴは初めて」という方もたくさんいらっしゃったのでは?

吉田社長
そうだと思います。ジャズはどうしても”タバコと酒”といったイメージが強く、ライヴハウスに行くのに抵抗を感じられる方も多いんです。でも普段ジャズを聴かれないようなお客さまが、TIME & STYLEという日常のなかでジャズを聴くというのは、新鮮で刺激になるんじゃないでしょうか。

いつも”瞬間の感動”を提供し続けられるような存在でありたい、と思っています。

「家具は、家族や個人の思い出をともにしていく道具以上の存在」

ーーー売るものは家具ではなく、”刺激”や”感動”なんですね。私たちクラフトは、リノベーションを通じてお客さまに『暮らしの豊かさ』を提供したいと思っています。吉田社長が家で豊かさを感じるのは、どんな瞬間ですか?

吉田社長
ゴハンを食べている時でしょうか(笑)。まあ、平凡な日常だと思うんです。特別な時間ではなく、ぼーっとしたり、音楽を聴いたり、本を読んだりしてゆったりした気分になれるときが一番豊かな時間なのかな。

ーーーその中で、家具はどのような役割を果たしていると思いますか?

吉田社長
家具は、本来なら長く使うほど、いい味が出てくるものです。たとえばTIME & STYLEのほとんどの家具は、オイル仕上げなので撥水性がありません。ワインをこぼしたり、お子さまが傷つけたり、という暮らしの痕跡が残っていく。でもそういうものの方が価値があると思うんです。もちろん、そのためのメンテナンス体制は整えています。ソファのファブリックが擦れたら張り替えができる、テーブルにキズができたら修復できる。

家具は家族や個人の思い出をともにしていく、道具以上の存在だと思っています。

編集後記

インタビューを行ったのは、TIME & STYLE MIDTOWN。吉田社長が好きだというマイルス・デイビスのトランペットがごく控えめに流れていました。

切ないくらい鋭いのに、根底にはあふれるほどの優しさを讃えている。壊れそうなほど繊細なのに、芯にはハガネのような強さを持っている。マイルスの演奏とTIME & STYLEの家具には共通点が多いように思えます。

インタビュー後の雑談で、「人の二面性に惹かれるんです。人にはかならず光と影があるでしょう」と言った吉田社長。そのマインドは、家具のたたずまいにほんの少し、にじんでいるような気がしました。

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熟練した職人たちが「手しごと」で家具を製作。洗練されたモダンなデザインからは想像できないほど、昔ながらのものづくりにこだわっています。

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