クラフトを支える電気屋さん「誰の邪魔もしたくない」 | リノベーションスープ

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クラフトを支える電気屋さん「誰の邪魔もしたくない」

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「他の職人の邪魔をしないこと」

”一流の電気屋さんとは?”という質問に、ひかえめながら明確な口調で答えてくれた相澤さん。それぞれの職人さんの”合間”を見付け、呼吸を読み、まるで空気のように作業をこなしていく。そんな軽やかさが求められるのが電気屋さんです。

クラフトを支えてくれる職人さんシリーズ。今回は、相澤電気の相澤さんにお話をうかがいました。

「大工さんがいないところを狙ってやってるんです」

この日は戸建ての現場です。1階と2階をあわただしく行き来する相澤さんを、カメラで追うのはひと苦労。配線前の大切な作業の1つ、採寸をしているそうです。

「失礼ですけど、どうしてそんなに移動するんですか?」と聞いてみました。

「ああ、そうですよね(笑)。今日の現場は大工さんも入っているので、大工さんがいないところを狙ってやってるんです」(相澤さん)

なるほど。思い起こせばこれまでの職人さんは、1つの部屋にタイル屋さんだけ、クロス屋さんだけ…というところばかり。それを考えると、ここまでたくさんの職人さんが行き交うのはちょっと特別なことのように思えます。

この日は大工さんと一緒の現場でしたが、軽天屋さんやタイル屋さんと一緒になることもあるそうです。

「他の職人さんは『この日からこの日まで』って工程が決まっているけれど、電気屋はないんです。さっと行って、さっとやります」(相澤さん)

自分のペースで作業できないことに、ストレスを感じることはないのでしょうか?「ずっと昔からやってるから、感じたことはないですよ」と相澤さんは笑います。

仕事はスピーディー、心はゆったりと大らか。電気屋さんは、他の職人さんとは違うことを求められているようです。

「とにかく他の人の邪魔をしないこと」

ふと「一流の電気屋さんとは、どういうものだと思いますか?」とたずねてみました。

「とにかく、他の職人さんの邪魔をしないことです」

と、はっきりとした言葉が返ってきたました。

「私のような電気屋は、『他の職人さんの合間に入らせてもらっている』と思っています。だから、絶対に他の人の邪魔をしてはいけないんです。もし邪魔になりそうだったら作業を止めて待ちます。どうしても集中して作業したいときは、誰もいない休日にやることもありますね」

ちなみに、ラフに下ろした髪がとても印象的な相澤さん。「サーファーですか?」と聞くと、「ちがいます(笑)。最近ずっと急がしくって、床屋さんに行けてないんです」

”人の邪魔をしたくない”

その心遣いは、相澤さんの手掛けた配線にもしっかりとあらわれています。

たとえば壁に配線するときは、他の職人さんが電線に釘が刺したり、ボードにはさんでしまったりしないよう、『ここなら絶対に大丈夫』という位置に通しているそうです。後から現場に入る職人さんが、スムーズに仕事を進められるように配線を計画する。

相澤さんは『こんなこと当たり前すぎて、言うまでもない』というように、さらりと話してくれました。

「みんなで1つの家をつくるから、チームワークを大事にしたい」

「電気設備は解体する時も必要だし、お客さまが暮らしはじめてからも、ちょっとした不具合がでてきたら飛んで行く。そこでいろんな職人さんと一緒になるから、できるだけコミュニケーションをとりながら、工事がスムーズに進むように心がけていますね。みんなで1つの家をつくっているので、チームワークが大切だと思いますし」

その言葉どおり、時おり大工さんに確認ながら作業を進めていく相澤さん。逆に、他の職人さんが相澤さんに質問をしたり。1つの現場でそれぞれの仕事を黙々とやるのではなく、コミュニケーションをとりながらよりよい家をつくっていこう。現場にはそんな空気が広がっています。

「クラフトのデザイナーもお客さまも、こだわる方が多いから」

手と身体を絶え間なく動かす相澤さんですが、ときどきハタと立ち止まり、まじめな顔で図面を見つめます。

その図面は相澤さんの手によって製本され、細かな書き込みがぎっしり。色とりどりの蛍光ペンで色分けされているのは「この配線がどこにいくかをわかりやすくするため」だそう。

「クラフトのデザイナーも、クラフトのお客さまも、こだわる方が多いから、現場での配線は複雑で大変です。図面がないと絶対に配線できません。現場に入るたびに、どんどん書き込みが増えていくんですよね」

「照明のスイッチを入れたとき、電気が点くとホッとします」

相澤さんが電気工事士として現場に入るようになったのは、今から30年前。

「実家が電気屋で、『一度外に出て修行してこい』と言われて。いろいろあって結果的に家業を継ぐことになったんですけど、続けてきてよかったと思います。何度も同じ現場に通ううちに、その家に愛着が生まれるし、完成すると単純にうれしい。

そして何より、照明のスイッチを入れたとき。うまく点くとやっぱりホッとしますね」

まとめ

リノベーションのとき、床材やクロスと同じように”配線”が話題になることはそれほどないと思います。しかし、最初から最後まで、そして暮らしてからも、現場と密接にかかわっていくのが電気屋さん。暮らしを照らすあたたかな光は、そんな相澤さんの手によってもたらされています。

大工さんの合間を縫うように、あちこち動き回る相澤さん。とても静かで控えめで、決して誰の邪魔もしない。その長年の習慣が身に付いているのか、相澤さんの口調もたたずまいも、とても軽やかなものでした。

*職人さんシリーズバックナンバー*
〈クラフトを支えるタイル屋さん「繊細に、ときに大胆に」〉
〈クラフトを支える大工さん「段取り8割のスピリット」〉
〈クラフトを支える畳屋さん「手縫いにこだわって」〉
〈クラフトを支える軽天屋さん「完成をイメージして」〉
〈クラフトを支える解体屋さん「きれいに取り外す」〉
〈クラフトを支えるクロス屋さん「納まりを美しく」〉

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