クラフトを支える畳屋さん「手縫いにこだわって」 | リノベーションスープ

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クラフトを支える畳屋さん「手縫いにこだわって」

クラフトを支える畳屋さん「手縫いにこだわって」

ライフスタイルの変化で畳離れがすすんでいますが、クラフトでは「小上がりに」「茶室に」と、畳をご依頼いただくことが多くあります。

機械化が進み、手縫いでつくられることがめずらしくなってきた畳。しかし相互畳工業さんは「昔ながらの手縫いがいい」と手作業にこだわっています。クラフトとのお付き合いが35年となる畳職人の篠澤澄男(しのざわすみお)さんにお話をうかがいました。

クラフトを支える畳屋さん「手縫いにこだわって」

初夏の風が心地のよい午後。

大きく開け放した入り口から店内に入ると、なつかしいイグサ(藺草)の香りがただよってきました。

「イグサの香りにはね、森林浴のような効果があるっていわれてるんですよ。だから畳の上にいると落ち着くんです」

お店の中には篠澤さんと、職人さんがもう1人。しんとした店内には、イグサを切ったり、縫ったりする音が静かに響いています。

リノベーションの現場で見る大工さんとは違って、手の動きはごくごく控えめ。しかし伝統工芸をつくる職人さんのような繊細さと、ぴりりとした緊張感がただよっていました。

大きな縫い針とまち針を使って、できるだけ手作業で

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ほとんどの畳屋さんの機械化が進むなか、こちらは手作業が中心。かまち縫い、畳縁つけ…。太い糸に、大きな縫い針とまち針を使って力づよく縫い上げていきます。

ふと見ると、畳の上にはゴザを丸めた針山のようなものが横たわっています。畳づくりには、”大がかりな裁縫”といった趣がありますね。

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「機械でやろうと思えばできるんですけどね。畳床は藁(ワラ)、畳表はイグサと自然素材ですから、産地や季節で質感が変わってくるんです。手なら、具合をたしかめながらキツく絞めたり、緩めたりとね…調整できますから」

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相互畳工業が設立されたのは昭和26年で、篠澤さんは3代目。それ以前の3代は大工さんで、代々ものづくりの家庭だったそうです。

「子供の頃からこういう環境で育ったし、ものづくりが好きだったから、跡を継ぐことに不満はありませんでしたね。高校を卒業して18歳からこの世界に入りました。もちろん親方が親父だからといって、丁寧に教えてくれるわけじゃありません。うちにいた職人を『見て覚えろ』ってやつですよ。寸法を間違って怒られたりしたけれど、そっちのほうが感覚として身体に叩き込まれるんですね」

畳は、湿気の多い日本の暮らしに合ってるんです

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篠澤さんの修業時代は。『畳づくりを覚えるまで3~5年、お客さまの応対ができるようになるまで10年』と言われていました。昔はゼロから手作業で、覚えることが多かったとか。またお客さまの要望もさまざまで、1日に1枚しかつくれないほど手間がかかる、しかし上等な畳の注文も珍しくありませんでした。

「当時と比べると、畳の注文もだいぶ減りましたね。でもうちは昔からのお客さまに贔屓(ひいき)にしていただいていいるからね。つい最近は『うちは全部フローリングだから置き畳が欲しい』といってきたお客さまがいましたね。畳は夏は湿気を吸って、冬は水分を出すという調湿機能がありますから、湿気の多い日本の暮らしに合ってるんです。昔の家は、木と紙と土でできて、湿度をコントロールしてくれていた。そのなかでも一番効果があるのが、畳ですからね」

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現代の住まいに合わせて、イグサの素材のバリエーションも豊富になってきたそうです。

イグサを叩き、霧を吹きかけて手のひらでならし、まち針を刺して縫い上げる。こうして作業を見ていると、機械がでてきたのは一部で、ほとんどが手作業で進んで行きます。

篠澤さんは時々、イグサに手のひらをピタリとくっつけ、撫でるようなしぐさを繰り返します。イグサの肌ざわりを確かめているようにも見えました。

いいものを、手を抜かず、丁寧につくる

相互畳工業さんで使うイグサは、熊本産が中心です。

「イグサの産地は昔から『畳は備後表・備中表』と言われて、広島・岡山が中心でしたが、最近では肥後表(熊本)が多いですね。あたたかいほうがイグサが育つのが早いからね。肥後表もとてもいいですよ。

ただしイグサは自然のものだから、その年の出来不出来があります。天候が良くていいものができた年は、よい素材が安く手に入る。手頃な価格で上質な畳をつくることができるので、私もうれしいですね」

クラフトを支える畳屋さん「手縫いにこだわって」

篠澤さんがクラフトの現場に訪れるのは、採寸と納品の短時間。そのため畳は”工場でいかによいものをつくるか”が要となっています。

篠澤さんが大切にしていることが2つあります。1つは『手縫いにこだわること』、もう1つは『少しでもいいものを提供すること』。「うちとしてはいいものを勧めたいけれど、お客さまにも予算がありますからね。その範囲のなかで少しでもいいものを手を抜かずに、丁寧につくる。それだけです」

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静かな語り口で、畳の心地よさ、つくり方と素材、そして畳づくりのおもしろさを語ってくれた篠澤さん。その飾り気のない言葉には、誠実な畳づくりを長年続けてきたという清々しさがありました。

「いつまでできるかわからないけれど、昔ながらのやり方にこだわってやっていきたいと思います」

相互畳工業(株)
〒158-0082 東京都世田谷区等々力5-5-14
TEL 03-3701-4643

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〈クラフトを支える大工さん「段取り8割のスピリット」〉

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