ル・コルビュジエのモダニズム精神を受け継ぐ日本の建築家たち

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ル・コルビュジエの「モダニズム精神」を受け継ぐ、日本の建築家たち

名建築家たちは大抵、シンプルかつ明確な建築哲学を持っています。

世界的に最も有名な建築家の一人であるル・コルビュジエも自身の建築に関して明確な哲学を持っていた人物。ル・コルビュジエの建築哲学を彼から直々に、または間接的に学んだ日本人建築家は、多く存在します。

今回は、作品中にコルビュジエの遺伝子ともいえる哲学、「モダニズム精神」を感じさせる名建築を残した日本人建築家たちをご紹介します。

【前川國男】

1905年生まれの前川國男は、東京帝国大学の建築科を卒業後に渡仏。日本人として初めてル・コルビュジエの事務所に入所し、3年ほどコルビュジエの元で学びます。

帰国後は「東京レーモンド事務所」に入所。さらに建築家として自身の腕と感性に磨きをかけていくのですが、レーモンド事務所の中心人物、アントニン・レーモンドはフランク・ロイド・ライトの直弟子。前川國男は奇しくも近代建築史に名を残す二人の天才の遺伝子を受け継ぐことのできた、稀有な存在です。

自身の事務所を開設した1930年代から80年代に至るまで50年近く、前川國男は数々の名建築を手がけました。

前川國男の代表作1〈旧京都会館(現ロームシアター京都)〉1960年

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前川國男の設計した「京都会館」は、現在では改装・再整備され「ロームシアター京都」という新名称になっていますが、今も前川國男が設計した部分が多く残されています。

京都という長い歴史・伝統を持つ場所にモダニズム建築を立てるというのは建築家として非常に勇気のいるプロジェクトであったはずです。しかし、水平方向を意識しつつ屋根部分に重厚感を持たせたデザインは、確かにコルビュジエの哲学を持ちながらも、どこか平等院や正倉院のような歴史的建築物を思わせる佇まいがあります。

前川國男の代表作2〈東京文化会館〉1961年

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コルビュジエの「国立西洋美術館」と対面するように建てられている「東京文化会館」。前川國男の代表作です。

1999年と2014年に大規模な改装が行われましたが、デザイン上の核となる部分は当時の姿が残されています。

コルビュジエに由来する精悍な佇まいに加え、柔らかさのある大庇(おおびさし)の曲線構造は、公共施設として多くの人を迎え入れるおおらかさを感じさせます。

【坂倉準三】

1901年(明治34年)に岐阜県の造酒屋に生まれた坂倉準三。親交のあった前川國男の紹介により、前川と入れ替わるようにしてコルビュジエのアトリエに在籍するようになります。

坂倉準三が帰国後開設した「坂倉準三建築研究所(現・坂倉建築研究所)」は現在も健在で、精力的な設計活動を行っています。

坂倉準三の代表作1〈国際文化会館〉1955年

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坂倉準三・前川國男・吉村順三の3人が結集して設計したのが、東京六本木の「国際文化会館」。

特筆すべき点は、コルビュジエ直系のコンクリート造の建造物と周辺に配置された伝統的な日本庭園の調和。平安時代に確立された「寝殿造り」の特徴の一つ「釣殿(つりどの)」と呼ばれる、池に張り出した吹き放ち部分などが設けられています。

坂倉準三の代表作2〈鎌倉文華館 鶴岡ミュージアム(旧神奈川県立近代美術館)〉1951年

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竣工後70年近く経とうとする古い建築物であるため、何度かの大規模な改装が行われていますが、改装を担当したのは先述の「坂倉建築研究所」。

コルビュジエから始まったモダニズム建築の精神は今も健在です。前面の池に映る姿と合わせて観ると、ピロティがいかに建物に軽やかさを与えているかを観察できる名建築です。

【丹下健三】

1913年生まれの丹下健三。1935年から東京帝国大学建築家を卒業後、前川國男建築事務所へ。丹下健三はル・コルビュジエから直接建築を学んだわけではありませんが、建築家としてコルビュジエのアイデアや思想から多大な影響を受けているようです。

丹下健三が建築を志すきっかけとなったのは「ソビエト宮殿」コンペのコルビュジエ案だと言われていますし(このコルビュジエ案は最終的に選ばれず、様々なトラブルによりソビエト宮殿も建設されなかった)、建築における丹下健三の師ともいえる前川國男は先述の通りル・コルビュジエの直弟子ですので、丹下健三はコルビュジエの孫弟子にもあたるわけです。

丹下健三の代表作1〈広島平和記念資料館〉1955年

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ピロティによる、大きく開けた地上空間と左右に広がる直線的な躯体を特徴とする建築で、コルビュジエからの強い影響が観察できます。

ピロティによって、この施設の主役とも言える平和記念公園のオブジェが、平和大通りからも見えるように設計。学生時代を広島で過ごしたことのある丹下健三にとって、特別な思いを込めた建築物だったのかもしれません。

丹下健三の代表作2〈香川県庁舎東館(旧本館)〉1958年

香川県庁舎東館も、コルビュジエが確立したコンクリート造の手法と日本の伝統的な木造建築様式を大胆に融合させた名建築の一つ。

丹下健三の独自性と日本人としてのアイデンティティーを強く感じさせながらも、コルビュジエの提唱した「近代建築の5原則」を全て取り入れており、丹下健三の初期の傑作と謳われています。

まとめ

今回ご紹介した前川國男、坂倉準三、丹下健三の作品は、どれも日本国内に存在しています。それぞれの個性を感じさせながらも、コルビュジエのモダニズム精神を受け継ぐ建築たち。言葉にできないような「凄み」や「美しさ」を感じさせてくれるはずです。

みなさんも休暇を利用して、「コルビュジエにまつわる建築ツアー」を行ってみてははいかがでしょうか?

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