鎌倉〈artique〉のオーナー浅野さんが考える、心地よい空間 | リノベーションスープ

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鎌倉〈artique〉のオーナー浅野さんが考える、心地よい空間

artique鎌倉

その家は、由比ケ浜の静かな住宅街に、言葉どおりひっそりとたたずんでいました。どこからどう見ても普通の民家で、だれかが「ここだよ」とおしえてくれなければ見過ごしてしまうほど。それが、今回ご紹介するartiqueです。

訪れたのは4月の終わり。青々としげった生け垣の合間から、年季の入った板張りの壁や瓦屋根が姿をのぞかせています。迎えてくれたのはオーナーの浅野玲さんと、妹の若菜さん。埼玉の東松山でアンティークショップを営んでいる浅野さんは、今年の3月に鎌倉に店をオープンしました。

「たまたまこの道に入ってきて、この家を見て『ああ、素敵だな』と」

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「5年くらい前から『鎌倉でお店をやりたい』って思ってたんです。それで2年前に鎌倉に遊びにきたとき、たまたまこの道に入ってきて、この家を見て『ああ、素敵だな』と。それからずっと記憶に残ってました。すると去年の暮れに、この物件が賃貸に出ているのを知ったんです」(浅野さん)

まるで浅野さんの想いがどこかへ届いたように、強くひかれていた物件を借りることができました。浅野さんとこの古民家との出会いは、必然と言えるかもしれません。

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暗くて長い廊下を通り抜けると、畳の大広間へ。ガラスピッチャーやワイングラスといったフランスアンティークの数々が、縁側から注ぐ光をうけて濡れたように輝いています。

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「なかなか庭が広い古民家がなくて、しかも鎌倉だとお店をやっていいというところが少ない。でもここはオーナーさんが『僕も古いものが好きなので、この家も大事にしてくださるなら…』とOKしてくれたんです」

欄間、天窓、洗い出しの壁…。派手さはないけれど、数寄者がこだわって建てたような印象を受けます。

どうやら日本で初めてインドとの貿易を成功させたという実業家が、明治末~大正初期に別荘として建てた家だとか。

「アンティークを探すのは、人が行かないようなマニアックな蚤の市」

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店内にあるのは、フランスを中心としたアンティーク。浅野さんご自身が、ときには妹の若菜さんやお母さまと一緒に買付けに行くそうです。

「観光客の行くようなマーケットは値段も高くて….。だから僕が行くのは、ほんとうに人が行かないような郊外のマニアックな蚤の市ですね。もしくはつぶれそうな古道具屋さん。倉庫なんかを見せてもらって、掘り出し物をさがします」

「フランスの北と南で売ってるモノって、違うんですよ」

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いちど渡仏すると、車で3週間かけてフランス中を巡る。気がつくとトランクや座席は、アンティークでいっぱいに。

「北と南で売ってるモノって、違うんですよ。南フランスはあたたかいから、陶器なんかが盛んにつくられてたみたいですし、民芸品もたくさん出てきます。北はランプとか工業系のモノがたくさん出てきますね。おもしろいですよね」

中には『これは一体、何に使うんだ?』というモノもあり、それを見て想像をふくらませるのも楽しいのだとか。まるで小さな男の子が、ガラクタの中から自分だけの宝物をさがすみたいに。

「いいものをみつけたときは、言葉にできないような高揚感が」

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浅野さんがセレクトするアンティークは、とにかく”自分が好きなモノ”ばかり。

「見たときに、心にひっかかったりするモノが多いですね。いいモノをみつけたときは、ほんとうに言葉にできないような高揚感が訪れます」

しかしそこは商売です。『これは売れる』といった品物を仕入れることはないのでしょうか? そう聞いてみると、浅野さんは少し戸惑ったような表情を浮かべた後、はにかみながら答えてくれました。

「たしかに多少は売れ筋を気にすることはあるけど…。それだけだと、どこにでもあるお店になっちゃうのかな、って。売れなくてもいいから、自分の好きなものを集めたいな…なんて思ってますね」

「子供のころ、気づいたら古いモノにひかれるようになってた」

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浅野さんがアンティークに興味を持つようになったのは、幼い頃におばあさまが見せてくれたモノクロ写真がきっかけでした。船上のデッキで、外国の人々に囲まれているのは浅野さんのご先祖さま。パリっとした背広と帽子を身に付けて、まるでスタンダールの小説に出てくる紳士みたいです。

「それを見たときから、古いモノにひかれるようになってたんです。そして中学生になって初めて骨董屋さんに行って、古銭を買ったんですよね。すごくうれしかった。

それに母がアンティークが好きな影響もあったかもしれません。壁という壁に、いろんなモノがぶら下がってましたから(笑)」

「僕の中ではお店も自宅と同じくらい、大切な場所です」

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そんな浅野さん、きっとご自宅もアンティークの家具や小物に囲まれて…とおもいきや、そうでもないそうです。

「お店をはじめる前は自宅にアンティークを、それこそ寝る場所がないくらい置いてたんですけど。自分でお店をやるようになってからは『こんなにいいモノをお店に出さないで、ひとり占めにしていいのかな』と。なので今は、前ほどは所有してませんね。

でも自分の中で、自宅とお店の棲み分けがあまりないから….。僕の中では、お店も自宅と同じくらい大切な場所です。お店の居心地がいいと、やっぱり気分がいいですね」

「古いモノに囲まれて、それを実際に使いながら過ごすこと」

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浅野さんにとって、〈心地よい空間〉とはどのようなものでしょうか?

「古いモノに囲まれていること。そしてそれを実際に使いながら過ごすことが一番かな。花瓶だったらお花を活けて、テーブルも椅子も実際に使って」

そう話す浅野さんが座っている丸椅子も、もちろんアンティーク。

よく晴れた気持ちのいい日は、テーブルや椅子を庭に出して、緑に囲まれた中でお客さんとお話しをする。「商品だから」と仕舞い込むのではなく、実際に使ってアンティークの魅力を感じてもらうのが、artiqueのちょっと面白いところです。

「古いものが1つあるだけで、部屋の空気が変わるんですよね」

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「兄はほとんど接客しないんです。『いいと思う人が買えばいい』って(笑)。でも私はお客さんに、それぞれのストーリーを知ってほしいからどんどんしゃべっちゃいますね」と若菜さん。とてもチャーミングに話しかけてくれる若菜さんの隣で、浅野さんはうなずきながらも静かに話を続けます。

「まずは自分が『好きだな』と思うものを1つとり入れてみる。考えるよりも自分の感覚で選んで。古いものが1つあるだけで、部屋の空気が変わるんですよね。それか、椅子のように実用的なモノを身近なところにおいて実際に使う。アンティークに詳しくない方でも、古いモノのよさがわかると思います。うん、きっと少しずつわかってくる」

そう言って浅野さんは、初夏のやわらかい光が若葉を照らす庭に、おだやかな視線を落としました。

インタビュー後記

心地よさの条件は、好きなモノに囲まれていること。

そうひかえめに語る浅野さん。100%ピュアなオリーブオイルみたいな純粋さで、飾ることなくありのままを話してくれました。インタビューを終えたときには、まるですごく年下の繊細な少年と、放課後の教室でお話ししているような気分になったくらいです。

縁側の向こうに広がる、真っ青な空とあざやかな緑。
風にやさしくなでられ、気持ちよさそうにたたずんでいる家具や小物。

空間は完璧とも言えるノスタルジアで満たされています。artiqueを訪れたことで、”好きなモノに囲まれた”浅野さんの世界を、ほんの少し共有できたような気が。

ここならきっと、お部屋の空気を変えてくれる宝物を見つけられるはずです。

フランスとヨーロッパを巡って集めた、古道具とアンティーク。埼玉県東松山市と神奈川県鎌倉市に店舗があります。浅野さんがブリキに描いた作品も展示中。

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